ロチェスター

今日から地獄のロード。ツアー日程を教えてもらったときはほとんどニューヨークだったので、わりと楽なんだなと高をくくっていたが、この州がこんなに広いなんて知らなかった。地図をみてみると毎日かなりの移動距離である。さらに今回はツアー企画をすべて任せっきりにしてしまっていた上にあまり密に連絡をとれておらず、人選すら蓋を開けてみてはじめてわかったという案配。こんなはずじゃないのになぁ、という思いがどうにもつきまとってしまい、いまいち心が躍っていない。移動中がどうにも精神的に重いものがある。もちろんとしまるさんやショーンと演奏できるのはすごくうれしいのだが。ローチェスターへ向かう。アメリカのハイウェイは同じような景色が延々と続き、気が滅入る。こういう風景を見ているうちにこの国の小説家や映画人たちは、殺人トレーラーとか、森に住む人喰い一家といったものを思いついてきたのではないかとおもう。雲一つない空の下、ドライブインハンバーガーを食べているとようやくアメリカにいるといいう実感がわく。6時間程度のドライブでローチェスターへ到着。会場らしきところについてみたところ、門が固く閉ざされ人気のない巨大なマーケットだった。ほんとうに今日ライブがあるのだろうか、という疑問をだれしもが抱き始めた頃、門番に別の入り口から入るよう示唆される。ぐるっとまわる際、庭に巨大な手首のオブジェがあり、門に犬の張りぼてが吊されている家を見かけた。結局、マーケットのなかにある小さな建物の二階に会場はあって、とりあえずセッティング。としまるさんはディナーに、アメリカならではの茹ですぎた不味いパスタを食べたいと主張、オーガナイザーにイタリア料理店をおしえてもらい、行ってみた。けっこうちゃんとしているつくりの店で、着席すると支配人による挨拶までおこなわれ、普通においしいパスタ屋のようでとしまるさんはくやしがっていたのだが、 いざオーダーしたものがやってくると期待したとおりのものだった。口にいれたとたんとろけてしまうゆで加減のパスタに、トマトの缶詰をそのままかけたような代物。しかも日本で考えられる一人前の四倍くらいの量がよそわれている。バリーとトーマスはこの店自慢の逸品というニョッキをオーダーしていたが、これもまた紙をかためたものにトマトの缶詰をそのままかけたような代物。としまるさんは大喜びだったが、私は頭痛に悩まされた。そして滞りなくライブは行われた。地元のバンドもでていて、これはソフトマシーン+スリーデイスタブルというかんじだろうか、でもそうかくとよさそうに聞こえてしまうが、もっととぼけたものであり、加えて始まる前に客もパーティー用のとんがり帽子をかぶるようにいわれ忠実に従っていたので、彼らの演奏中はほとんど意識を失ってしまっていた。しかも、おわってみると泊まる場所はないが、会場の床で寝ていいといわれ、気温も低いうえ全員分の寝袋すらなく、協議した結果ホテルに宿泊することにして、三時前ようやく寝るところをみつけられた。辛かったが、夜空の星はきれいだった。なんの愚痴もこぼさずニコニコ運転してくれているショーンにはいくら感謝の言葉を重ねてもたりない。