R.H.の手記

通勤途中の山手線で車両の隅に女子高生を追いつめ、脅えのあまりうつむくことしかできない彼女の耳元で妖怪の名前をささやき続ける。我に返ると2周もしていた。震えるばかりで動くことも出来ない彼女を駅のトイレに連れ込み「かかと」の恥ずかしい写真をさんざん撮ってきつく口封じをした後別れる。もう 十時を回っていた。彼女が遅刻のせいで叱られ、それを機に陰湿ないじめが始まり、ついには自殺してしまいはしないかと心配になる。誰か彼女を黄泉がえらせるだろうか?それがこの私である可能性だって十分にあるのだが、いや、想い出は美しいままがよいのではないか?今更再会など、照れ臭い。それよりも彼女の死後の教室の風景が気になる。彼女の机の上に置かれた花瓶に息を吹き込んだらどんな音色を奏でるだろうか。彼女の死が痛ましいものであればあるほど花瓶から透ける日の光はより美しい屈折をはらみ、私の吐息といっそう柔らかな姻戚 関係に入るだろう。そうした晩年のマネ的風景はさておき、私が「ひょうすべ」とささやいたとき、彼女の肩からうなじにかけてかすかな震えが走ったのを私は見逃さなかった。明日も同じ車両で待とう。