R.H.の手記

売り出し中のアイドルMを「ぴあ」の取材と偽って呼び出す。どうせつくなら嘘は美しいほうがよい。第一ホテル東京ベイのスウィートを借り切り、ニセインタビュー。継母のおそろしい虐待に堪え忍んだ少女時代、池袋でスカウトされた日のこと、そしてはじめての主演映画への意気込みなどを数時間かけて聞き出す。一応テープを回すフリはしていたが、本当は呻き声の入ったテープを再生し、録音係に変装した奴隷に聞かせていた。インタビューを終えた後、Mはすっかり私に心を開いたようだった。このひと、わたしをわかってくれている。これでなにも気兼ねをすることはない。未成年なのでオレンジジュースに睡眠薬を盛る。一瞬恍惚の表情を浮かべた後、棒きれのように倒れるM。写 真を撮った後、手足をいろんな角度に曲げて、あそんであげた。じぶんひとりじゃおふざけすることもできない、デリケートでかわいいやつなんだ。でも、あんまりはしゃぎ過ぎちゃだめだよ。お行儀よく椅子に座らせてあげる。微動だにせぬ Mを三日三晩ながめつづける。まるでギリシャの彫刻のよう。ドレスをそっとはだけ、美しい鎖骨のくぼみに牛乳を注ぎ、やわらかに私の唇を押し当てる。人間が社会的な意味を失い、器になるこの瞬間。瀬戸際の美。私の求めていたのはこれだ。はちみつやお粥ではなく、ミルクだ。白いミルクに夕映えが溶け、Mの白い肌を浸食していく。どんなしつけをされてきたのかしらと思ってしまうくらいお行儀良かったが、死んでいた。おくすりが過ぎたみたい。ミルクが零れなかったのは死後硬直のせいだった。容れ物どころか抜け殻、すっかり興ざめ。窓から投げ捨て、落ちるまでの間に30階から1階までダッシュ。見事受け止めた後、たいまつをかかげて森へ入る。