ここ一週間

11/7
横浜STスポットにて江口君の出演している『労苦の終わり』をみる。演劇のことはよくわからないが相当野心的な試みではないだろうか。脚本がどういう状態でかかれているのかみてみたい。畠山さん、服部夫妻、泉君と東白楽の名店「浪漫亭」へ。ここのレバーは格別なり。


11/8
ユーロスペースにて清水崇監督『稀人』。地下世界、狂気の山脈、そして主人公のモノローグによって語られる狂気と現実が入れ子になった構造。ラブクラフトテイスト満載の脚本を手がけたのはほかならぬ小中千昭さん。そういえば中学生のころテレビを観てたら大橋巨泉が司会を務める「ギミアブレイク」枠内にて「インスマウスの影」ドラマ版を佐野史郎主演でやっていてえらく驚いたが、後で知ったことだけどその脚本を手がけていたのも小中さんであった。クトゥルーの影は『邪願霊』にも随所に忍び込んでいて、現代日本を舞台にラブクラフトを語り続けている人がいるというだけでうれしくなってしまうなぁ。(そういえば古澤さんの『ドッペルゲンガー』ノベライズ版にも実はクトゥルーの呼び声が響いている。)さて、そもそもラブクラフトの恐ろしさとは、一人の人間では知覚しようのない永遠にも近い時間と空間が、そして見たら気が狂うしかない絶対的な存在がすぐ側にあるという感覚であり、『フロム・ビヨンド』という前例もあるとおり、映像化するのは無謀な賭けだ。『稀人』では清水監督らしくこの世ならざるものはしっかり視覚化されていて、狂気山脈や闇を這うものをほんとに出すという危険を冒してはいたけれども、やっぱり圧倒的な恐怖として迫ってはこなかったなぁ。『呪怨』(ビデオ版)はもちろんバーンとでてくる幽霊も怖いのだが、私はやはり最初に家が映ったときの、ああここには確実になにかがいるというあのただならぬ空気が忘れられない。とはいえやはりビデオでとった画の使い方はさすがに上手く、「F」も人ならざる存在として成り立っていて私は好きな映画でした。塚本晋也もいいです。そういえば大ヒットしているらしい『呪怨』ハリウッド版はどうなんだろう。日本公開はいつかな。さて、夜はツアーを終え、ついでに先日誕生日をひとりで迎えていたジョン・ブッチャー氏を囲んでの飲み会。美味しいものが食べたかったら大阪だろうがウィーンだろうが服部に電話するのが吉だ。ブッチャー氏がお好み焼きなるものを食べてみたいということなので西新宿のお店を紹介してもらったが、後で聞いたら服部自身は行ったことがないとのこと。どうやら調査係を仰せつかったらしい。ブッチャー一味、サチコさん、としまるさん、キャプテンといった顔ぶれ。白い紙がお札へと変化するマジックを披露するキャプテン。またすごいところにたどり着いてしまった。しかし服部君、実にいいお店でした。ちょっとほかでは味わえない類のお好み焼きである。野菜焼きとか黒枝豆とかシンプルなものもハイクオリティだ。また行きたい。ウェールズ出身のロードリを囲み数名でスコティッシュパブへ。


11/9
ロードリは放っておくと一日12時間くらい眠る。午後はレコード屋などをめぐる。タワーレコード渋谷店クラシックコーナーにてハープコーナーがないことに憤慨するロードリ。お土産にとまんだらけにて、なかのゆみ『血に染まる月下美人』(ひばり書房)を購入。さらに新宿ユニオンにて三上寛戸張大輔などナイスなセレクトのお買い物をしていたが、ずっと欲しかったLAFMSのボックスや杉本さんに勧められていたウィーンの作曲家Katharina Klementを中古でみつけ、散財したのはむしろ私のほうだった。木下君誕生パーティーのため高田馬場へ移動。杉本さんと合流。プレゼントを物色するため書店へ赴き石川啄木歌集を買った。せっかくなのでリボンもつけてもらった。パーティー会場は早稲田の名店、一休。学生の頃は毎日のように来ていたものだ。主賓を待たずに開始。おばちゃんがお元気そうでなによりだった。一度も注文したことはなかったが、イグアナ酒、トカゲ酒といった奇異なメニューも取りそろえられていることに気づき、仕事をおえてかけつけてくれた木下君にさっそくマムシ酒をプレゼント。意外にフルーティーでおいしかったが木下君は若干意識が遠退いたらしい。改装して地下から三階建てへと変貌を遂げた高田馬場コットンクラブへ河岸をかえる。前は暗くてよかったが、なんだかファミレスみたいな光でしょうもないBGMのかかる店になってしまっていた。べつにケニーGに怨みはないが残念である。途中からオントンソンの吉本さんにも合流していただいてさらに飲む。木下君お誕生日おめでとう。


11/10
昨晩、帰りの電車にてふたりで作曲したデュオ曲を録音。73分中1分だけかぶる。20分なにもしないところがあったのでそこは寝た。ハープをころがしつつ蕎麦屋やデパートなど。夜はオフサイトにて大蔵さんとトリオ。最近ライブの数が減ったがその分ひとつひとつがとても充実している。


11/11
早朝、大きなハープ用フライトケースのためにお願いしていた介護用タクシーにて成田行きのバス停へ。別れを惜しみつつ、といっても来月にはまた会うのでライトにお見送り。帰って寝る。午後マスタリング作業などをして夕方はまたユーロスペースに行って『ソドムの市』再見。つまりこの映画が目指しているのは「映画ならざるなにか」あるいは「映画になる以前のなにか」である。それはかつて自主制作8mmにおいて制作者の意図とはほぼ無関係に、物理的要因やサークル内の諸事情といった磁場の作用によって、ウッカリ一本の映画としてできあがることになってしまった映像にあったものだった。『ソドムの市』は、そのようなシネマになり損ねた生ける屍のような映像を、制作プロセスをかぎりなく大学のサークル的なものにすることでふたたび呼び込もうとする試み、だとおもう。たしかに、映画館の席を立つときの感覚は、学生時代に迷い込んでしまった映画サークルの上映会で幾度となく覚えた、なんだかスゴいけどでもこれって映画なの?というあの感情だ。だが『ソドムの市』における最大のパラドクスは、その混沌は目指されていた、ということである。上映会のあとつぶやかれていた、こんなの映画じゃないじゃん、デタラメだ、という言説が、欲望されているように思われてしまう。作り手の意図と無関係に映像から立ち現れくる恐怖と笑いが、作り手の狙いとしてみえてしまうという矛盾、これが『ソドム』の問題点であり、同時にまたその果敢さの表出であるようにおもう。


11/12
バイトの休み時間に安いマグロ丼屋をみつけて、立地のよさにもかかわらず朽ち果てたその店構えからひょっとして名店なのではないかと入ってみたところ大はずれ。えらい不味かった。それだけならよいのだが食後全身に震えがきて、お腹が痛くなるならまだしもなぜか肺の周りがチクチク痛みはじめてとても辛かった。レイトショーで『ソウ』を観るつもりだったがあきらめて帰る。


11/13
とある会議に出席するため京都へ。夜は元パララックスの藤井君とこれからパララックスで週一回働くらしい北京君と飲む。楽しかった。天下一品総本店にもいったがスープがぜんぜんちがいますね。


11/14
開店直後のパララックスにおじゃまし、納品がてらおしゃべりさせていただく。なんだか最近、閑散としているということなので京都のみなさんぜひお買い物にいってください。店長がスコッチウィスキーをついでくれる楽しいレコード屋さんです。ヒバリ新譜も入荷しました。