R.H.の手記

家に帰ると見覚えのある外国人女性が来ていた。ハリウッドの出演交渉に来日しているエージェントの女性だということに気付く。何年も前から『ランボー 17・憤怒のシベリア』への出演依頼が来ていたのだった。そのために身体を鍛えていたのだったが、最近すっかり忘れていた。しかし鏡の前に立ってみる と、何もしていないはずなのに私の身体はますます完成に近づいていた。しばし鏡にぴったりと体を密着させ、俺から俺への滋養の転移を楽しむ。エージェン トにはご褒美として腹話術で「こけし」の発音を教え込む。程なく飽きたので隣の夫婦を篭絡しスワッピング・パーティーに持ち込む。パートナーを取り換え 激しく性交しているうちに、いつしか心は悲しみの桃源郷、魂の運動会へ。私たち四人が四人とも、ひたすら前後運動を繰り返すマリオネットと化す。生の充 溢。しかしながら、こうしたことすべては死を想う為の前奏曲のようなものに過ぎない。こうしたときワグナーでは懐かしすぎてダメだ。後戻りのきかない私 たちの心持ちにはブルックナーの静かでねじ曲がった狂気でなければならない。白日の狂気が訪れる。会の趣旨を取り違えた夫君が歓喜のあまりやおら私の顔 面に飛び乗り脱糞。宇宙との交合ははかなくも断ち切られる。前歯の周辺だけをねらい、私の鋼のような手刀を繰り返し叩き込んだ後、貧相なトルソに口紅で 「華厳の滝」と書き込む。後者の方が応えたようだった。すっかり興ざめして帰宅するが、オルガズムに達してないことに気付く。裸体のままベランダに出た 私は、怒張したペニスを指揮棒に見立て東京中の悪霊を相手に名演奏。感極まってザ・雨を30トンばかり近所に降らす。その時くすくす笑いをしていた奴隷 は郷里に送り返すことにした。もちろん小指だけ。私の演奏が尻文字にしか見えぬ下賤な輩に用はない。図らずもリストラに成功する。翌日の朝、掃除に追わ れててんてこ舞いの管理人にいろいろと問い質されるが、知らぬ存ぜぬを通す。