R.H.の手記

乾布摩擦をしていたら血がたぎってきたので庭の巨石を持ち上げると裏に父親の顔をした芋虫がびっしりと張り付いていた。こちらに気づいた芋虫は口をそろえて「お兄さん!!」と合唱した。私がいぶかしんでいると、父親の顔をした弟であるところの芋虫は一斉に「カステラ一番」の替え歌「ハットリ一番」を歌い出した。ハットリ一族に代々伝わるこの歌を知っているのだから、確かに血縁の者に違いない。父親の顔をした弟であるところの芋虫。懐かしいがしょせんハットリと芋虫なので、一匹ずつ丁寧につぶしてゆかないといけない。父親の顔をした弟であるところの芋虫が「ハットリ一番」を歌い続けてるなか、ハットリの顔をした芋虫をつぶして行った。おたがいの趣味嗜好や有り難うとさようならを言いながら一匹ずつつぶしていったので、一日仕事になってしまった。初めましてとさようならを同時に言わなければならない奇妙さは、誰でも一度は味わったことがあるはずである。最後の一匹をつぶしても、まだハットリ一番は続いていたが、ハットリ一番を歌っていたのは私だった。しかし一番なのだからしょうがない。