マーカス夫妻に案内され、ハイゲイト周辺を散歩する。お宅の裏側は林で、昔は線路がはしっていたそうだ。中尾さんを連れてきたら嬉々として8mmをまわし続けるに違いない。あ、いや、線路自体は撤去されているので憤慨するかもしれない。一か八かだ。丘の上に巨大な建造物がある。ダニエルが交渉してくれて、なかのパイプオルガンを特別に見せてくれることになった。なんたるお取り計らい。巨大なものだ。是非ジャン・リュック・ギヨネに弾いてほしいものだ。帰り道、ダニエルにこの界隈に出現したシリアルキラーのはなしをきく。デニス・ニールセン。今度くわしく調べてみよう。レンガ造りのお洒落な街並の株がだんぜんあがる。帰宅後、夜、お食事会があるということでダニエルのご両親がいらっしゃった。髪を整えてきたダニエルにすかさずお前ヒットラーみたいだな、とお父さん。これがユダヤジョークか・・・。お出かけになったので、僕はハイゲイトの街を散策してみた。景色があんまりかわらないのと、静かなのとで考え事するには最適だ。いろいろ考える。考えるうちに、ふと高校時代に作っていた同人誌『牛乳忍者』のことを思い出した。通称「忍乳」で、この場合なぜか逆になる。今にして思えば、あの時の僕は編集者として失格だった。でたらめなものが作りたかったのに、雑誌とはこういうものだと自分が前提としてしまっているなにかに気付かず、阿部君や泉君の無軌道なパワーを押さえ込もうとしてしまっていた気がする。はげしい後悔の念に襲われる。若気の至らずだ。阿部君のマンガはすごかったな。あれ残ってるのかな。あんなアナーキーなポテンシャルがもてたらいい。ああいう無垢で残忍なものになろうとがんばったらだめなんだけど、自分が外側から指をくわえて見ていたことに気付いてしまった時点でがんばるしかないこともわかっているのでがんばるしかないだろう。でも『牛乳忍者』ってあらためてすごい名前だ。全然意味がわからん。突然段ボールの蔦木栄一さんが亡くなった。面識があったわけではないが、大ファンだった。大ファンだといっても、ライブに足しげく通っていたわけではないし、作品をコンプリートしているわけでもないのだが、彼らがいる、というだけで、とてつもない自由が広がっているような手応えがあった。突然段ボールがいなかったら世の音楽はもっと貧しかったのではないかと思える。ご冥福をお祈りする、というよりは、ほとに感謝したい。存在してくれてありがとうだ。最高にかっこよかったです。