グラーシュ

hibarimusic2004-09-25

雨。ルカとペトラちゃん、アレンカちゃんとランチ。赤みがかったビネガーをタバスコと間違えて思い切りかけてしまったことを差し引いても美味なパスタ。今日はスロヴェニア山間の町チェルクノでライブがある。鉄道は通っていないため交通手段は一日数本しかないバスのみ。逃すわけにはいかないのでバス停まで直行できるようレストランにタクシーを呼んであったが、時間になっても一向に来る気配なし。これはマズいという雰囲気が漂い始めた頃、いつの間にか姿を消していたペトラが車で乗り付ける。お姉さんの車を借りてきてくれた。ありがたい。だが、バス停まで車で5分といわれていたものの、実際は激しく渋滞していて30分くらいかかったため、もし仮にタクシーが来ていたとしても間に合わなかっただろう。最初の読みの時点でおおはずれだった。乗りかかった船と結局チェルクノまで運転してくれることになったペトラ。なんとお礼をいったらいいのだろう。曲がりくねった山道を行く。目映い緑のなかに羊の群れがみえる。木々、清流、目に入るものすべてが美しい。旧共産圏はいいなぁ。ラジオ出演があるから遅刻できないなぁとつぶやくマッティン。ラジオ出演があることをそこではじめて知った私。2時間ほどたったころ山の谷間に小さな町がみえた。目指すチェルクノである。山には雲がかかっていて、頂上には雪。標高が高いのだ。この町の小さなフェスティバルに出演する。ルカとペトラはリュブリャナで観たいライブがあるということで、我々を送り届けて即下山。セッティングをして地元ラジオ局へ移動。我々の前に同フェスティバルに出演するほかのバンドがインタビューに答えていた。一見普通のハードロックだが、ギターソロに当たる部分をアコーディオンで演奏することで独自の音楽性をアピール。我々のインタビューも朗らかに進行。お互いを誉め殺す。はじまるまで散歩して時間をつぶす。それにしても美しいところだ。空気が澄んでいるせいか、夕陽が輝きを増してみえる。ライブはラジオのパーソナリティーのお兄さんにやたらうけていた。近所のレストランで食事。ウィーンのとはまたことなるグラーシュ。珍味。リングリングフェスティバルでグランド・ゼロを観たことがあるというベオグラードの青年とはなす。会場では先ほどのハードロックバンドがライブをしていたようだが、明日に備え就寝することにする。宿泊は簡易ベッドが無数に並ぶ山小屋のようなところ。寒い。


日記の日付が一日ずれているので二日分まとめて書きます。ここから25日。朝6時起床。朝のチェルクノは一段ときれい。そして極寒だ。車でリュブリャナまで送っていただく。ベオグラードの青年も一緒。坂を猛スピードで下り、一瞬死を覚悟したが無事到着。見送りにきてくれたルカとコーヒーを飲んで、ウィーン行きの電車に乗る。ちなみにルカは L'innomableというCD-Rレーベルを運営していて、マット・ディヴィスとジョエル・スターンのデュオ、それからマッティンとマルガリタ・ガルシアのデュオをリリースしている。http://www.linnomable.com マッティンは車内でバクーニンを読んでいる。ウィーン・シュドバノフに着く。泉君にCDのジャケットをディエター宛におくってもらっていて、ここで受け渡してもらうはずだったが姿が見あたらない。電話すると、荷物が届いてないという。Feddex便なので大丈夫だと思っていたが、読みが甘かった。今夜ライブがあるニッケルスドルフ行きの電車まで少し時間があったので、一旦ディエター宅に寄る。泉君に連絡をとりFeddexに確認したところとりあえずウィーンまで来ていることを確認。もうここでは受け取れないのでロンドンへの再送を手配。できあがりを楽しみにしていたので残念だったが、とりあえず一安心。ディエターにはほんとうにいろいろお世話になってしまった。ありがとう。シュドバノフへ戻り、出発時刻までソーセージを食べる。ウィーンからちょっと離れるともう美しい田園風景だ。マッティンにうながされ降りた駅もまわりは自然がいっぱい。小さな民家以外建造物は見あたらず。八日市場どころではなかった。ほんとうにこんなところでライブがあるのだろうか。疑念を抱きつつ会場へ向かう。たどり着いたところはこれまたクラシカルなパブといった風情だが、地下に広いライブ会場があって、 毎年ジャズフェスティバルが開催されているそうだ。クラウスは先に着いていた。今日はマッティンと私のデュオはなく、クラウスと私、そしてラドゥとマッティンのデュオ二本立てのはずだった。セッティングして、車内でつくったパッチをテストし、クラウスにllooppのレクチャーをしてもらって、格別なグラーシュをいただき、開演時間が近づいたがラドゥの気配なし。心配になって電話してみると在宅。体調が悪くて寝込んでいたらしく、不参加に。レコーディング以外ではワールド・プレミアになるデュオをひたすら楽しみにしていたマッティンは見るからにがっかりしていて不憫である。残念だが仕方がないのでたまたま見に来てくれていたターンテーブルのWolfgang Fuchsをゲストに迎えてライブをすることにする。会う人会う人、ニッケルスドルフのライブは誰も見に来ないからと念を押されていたが、客席を見渡すと案の定、マイケル・ナイマン風の小柄な紳士、神経質そうな眼鏡の青年、どう見てもメキシコあたりの人にしかみえないテンガロンハットをかぶったおじさん、それから飲みに来た地元の方が二名の古ぼけた場末のパブである。国こそオーストリアだが雰囲気はまさしくレニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカだ。俄然テンションがあがる。クラウスはやっぱりすごい。コンピューターを生楽器を愛でるが如く丁寧に演奏できる人はほかにいない。終演後、地元の酒豪と談笑し、車で会場からさほど遠くないところにあるクラウスの別邸へ。みえるのは見渡す限りの平野で、ウサギの群れが車の前を横切る。ほどなくして着いたその場所は家というより野営といったほうがふさわしい廃墟だった。どういう条件で借り受けているのかわからないが、屋根やら壁やらの修繕はクラウスが自分でやったという。さすが名プログラマーだ。だだっ広く、これから一週間はここの環境改善に集中するという。クラウスご執心の黒猫二匹が出迎えてくれる。これは確かにかわいい。かわいすぎる。小さい。しかも人なつっこい。しばしの間、我をわすれて戯れるマッティンと私。明日も早いのでとっとと寝たが、取り乱したまま布団の寝心地を尋ねる妖女ゴーゴンの夢にうなされ目が覚めてしまう。