リスボン雑感

リスボンは坂の街である。しかも入り組んでいて、丘の上にみえる城趾を目指して歩いていると、隣の丘にたどり着いてしまう。そこには古い教会があった。着色された聖像はいささか禍々しくみえる。丘を下り、また登り、城にたどり着く。千年の月日を経た石の壁は、うっかり現代アート展示場として使われていた。歩くうちまた教会に入る。この世のものとは思われぬ美しい歌声が聞こえてきた。みると小さな聖堂を掃除しているおばさんが歌っているのだった。柱の影でしばし耳を澄ます。そのうち観光客の団体さんにかき消された。 エルネスト・ロドリゲスはサイフォンでコーヒーをいれる。 家には犬と猫とインコがいる。そういえば大蔵さんはビルバオで、年配の女性が等しく着飾り、町にあふれていることに注目、「お母さん単性生殖説」を提唱した。曰く、地球空洞説よりはよほど信憑性があるという。リスボンからパリまで直通の夜行列車がでている。目指すサン・セバスチャンはその途中にある。夕方四時に出発。席が同室だった初老の紳士はファティマで降りた。鉄道が動き出すと、それまで死骸だとばかり思っていた蜘蛛が動き出す。ファティマ。奇跡か何かが起こった場所ではなかったかと記憶の糸をたどっているうち、次の駅で韓国からきたという青年が乗ってくる。敬虔なカトリックである彼は、半導体の会社を辞め、聖なる場所を訪ねてヨーロッパ各地を旅行しているのだという。聞くとファティマはやはり、1917年に聖母マリアが現れたという場所だった。子供3人相手に不吉な予言を授けたとのこと。ご苦労さまである。ほんとうは巡礼の終着地コンポステラに向かうつもりだったのが、ストライキのため断念。行き先をサン・セバスチャンに変更したところだという。夜中ビュッフェでトルティーヤのサンドイッチ。フランシスコ・ザビエルバスクのひとだ。